早朝の山道を車で登り、ようやくたどり着いた温泉宿は、雪に覆われた静かな佇まいだった。冬の六時過ぎ。外はまだ暗く、凍てついた空気が肌を刺す。広告代理店の営業で地方出張が続き、連日の疲れをどうにか癒そうと、宿のフロントで貸切風呂を予約した。
受付の女性に鍵を受け取り、案内されたのは露天に面した貸切風呂だった。木の扉を開けると、湯気がふんわりと立ち上り、硫黄の香りが鼻を突いた。内湯はそれほど広くなく、岩を積んだ湯船がひとつ、脱衣所は簡素にカゴとタオル掛けだけ。冬の早朝ということもあり、他の客の気配は一切ない。着替えを脱ぎ、腰にタオルを巻いた俺——リュウジは、湯船に足を浸した。熱い。芯まで温まる感触が、肩の凝りをゆっくり溶かしていく。
ふと、隣の脱衣所から物音がした。誰か来たのか。貸切のはずなのに、と思って振り返ると、木の仕切り越しに女性の声が聞こえてきた。
「すみません…こちら、予約してなかったですか?」
低めの、落ち着いた声。宿のスタッフに聞いているようだ。やがて扉が開き、女性が入ってきた。アカリと名乗った彼女は、IT企業のOLで同じように早朝の貸切を申し込んでいたらしい。スーツ姿から想像されるよりずっと柔らかな印象の、黒髪を耳の後ろで留めた女性だった。
「じゃあ、交互に…と」
アカリはそう言いかけたが、宿のスタッフが「今は他に空きがないので、共有でお願いします」と答えた。気まずい沈黙が流れた。俺と彼女は互いに目を合わせず、湯船の端と端に分かれて座った。湯の表面が波打つ音だけが響く。
最初のうち、アカリは湯船の縁に腕を置き、遠くの山並みを見ていた。冬の冷たい空気が湯気に混じり、吐く息が白くなる。俺も同じように沈黙を守った。疲れているからか、それともこの状況に緊張しているからか、言葉が出てこない。
やがて、湯の中で体を沈め直したアカリの動きで、湯船の湯が揺れた。彼女の肩がわずかに俺の方へ傾いた瞬間、豊かな胸の柔らかさが、背中に触れた。
「…あ」
小さな吐息が聞こえた。温かく、重みのある感触。タオルを巻いているとはいえ、布一枚隔てた先の肌の熱がはっきりと伝わってくる。彼女もすぐに気づいたようで、慌てて体を引いた。
「ごめんなさい、湯船が狭くて」
「いえ、こっちこそ」
短いやり取りの後、再び沈黙。だが先ほどの触れた感触が、背中に残っていた。湯の熱とは別の、柔らかくて温かい記憶。アカリも同じように気になっているのか、呼吸が少し速くなっているように聞こえた。
二回目、三回目の接触は、彼女が体勢を変えたときに起きた。湯に浸かり直すたび、胸の重みが背中や肩に落ちてくる。最初は偶然だったものが、次第に彼女の動きが緩やかになり、距離が縮まっていく。
「…温かいですね」
アカリが小さな声で言った。視線は湯面に向けたまま。
「ええ、冬の朝は特に」
「出張で来られたんですか?」
「はい。営業で。あなたは?」
「地方の取引先との打ち合わせです」
会話は短く、事務的だったが、湯の中にいるという親密さが、徐々に言葉を和らげていった。彼女の声は落ち着いていて、でもどこか少しだけ甘く響く。背中に触れる胸の感触は、会話のたびに少しずつ長く留まるようになった。
アカリは湯船の縁から体を起こし、ゆっくりと俺の後ろへ回り込んだ。
「少しだけ、背中を貸してもらってもいいですか」
言葉の意味を理解するのに一瞬かかった。彼女の胸が、俺の背中に沿うように密着する。豊かで柔らかい感触が、背骨に沿って広がった。タオル越しでも、乳首の形がぼんやりと意識される。
「熱い…」
彼女の吐息が耳元で聞こえた。香ばしい石鹸の匂いと、湯の硫黄臭が混じり、鼻腔をくすぐる。俺は動けず、ただその重みを受け止めていた。
「リュウジさん、肩、凝ってそうです」
アカリの指が肩に触れた。ゆっくりと揉むような動き。密着した胸が揺れるたび、背中全体にその感触が伝わる。湯の中で彼女の手が少しずつ下がり、腰のあたりへ。指の先がタオルの端を軽く捉えた。
「このまま…いいですか?」
彼女の声が少し震えている。俺は頷いた。返事の代わりに、彼女の体がさらに密着した。胸の柔らかさが背中に押しつけられ、湯の熱とは違う、生きている体温が全身に染み込んでいく。五感がすべて彼女の存在で埋め尽くされる感覚。湯の音、吐息の音、肌の感触、鼻を突く湯の匂い——すべてが同時に高まっていった。
その後、行為は徐々に深まっていった。彼女は俺の背中に胸を押しつけながら、指で首筋を撫で、耳元で息を吹きかける。湯船の中で体位を変え、アカリは正面から俺に跨がる形になった。巨乳が水面から浮き上がり、湯の雫を滴らせながら、俺の胸に重なる。
「触れていいですか…?」
問いに俺が頷くと、アカリの手が俺の腰へ伸びた。彼女の胸が俺の顔のすぐ近くにあり、湯気の中でその形が鮮明に見える。柔らかく、形の良い膨らみ。彼女は俺の反応を確かめるように、体を少しずつ前後に揺すった。密着した下半身の熱が、湯の熱と混ざり合う。
指先の動き、唇が触れ合うまでの間、彼女は俺の耳元で小さな声を発し続けた。
「リュウジさんの体、熱い…」
「アカリさんの胸、重くて…」
互いの名前を呼び合いながら、湯の中で体を重ねる。肌が擦れ合う音が、水音に混じって響く。彼女の乳首が俺の胸を刺激し、息を飲み込む声が上がった。クライマックスの瞬間、アカリの体が小刻みに震え、俺を抱きしめる腕の力が強くなった。湯の中に溶けていくような快感が、頭の先まで広がっていった。
行為が終わった後、二人は少し離れて湯船に浸かった。
「こんなこと、初めてです」
アカリが、湯の表面を見つめながら呟いた。
「俺も」
「でも、気持ちよかったです」
湯冷めしないよう、もう一度体を沈める。彼女の手が、そっと俺の手に触れた。
「また、会えますか?」
「それは…わからない」
二人はそれ以上深くは追及せず、湯船から上がった。脱衣所で服を着替え、早朝の廊下で別れた。アカリは山あいの道を下りる車を見送るように、一度だけ振り返った。
「また、どこかで」
その言葉だけを残して、彼女は宿の奥へ消えていった。
冬の朝の冷たい風が、湯上りの体を包んだ。胸の奥に残った柔らかい感触と、硫黄の匂いが、しばらく消えなかった。























































